DXで事業の「営み方」の変革をトータルに支援する
荒井友久
ビジネスストラテジスト
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局
博報堂にはコンサルティングのプロがたくさんいます。「ビジネスストラテジスト」もそのようなプロ職種の一つです。しかし、ビジネスストラテジストは、コンサルティング専業会社のコンサルタントとはひと味違った仕事をしています。その役割と仕事の醍醐味について、キャリア採用で博報堂に入社し、現在はマーケティングシステムコンサルティング局でビジネスストラテジストのリーダーを務める荒井友久に語ってもらいました。
■「ロジック」と「感性」を両立できる仕事
─博報堂に入社するまでのキャリアをお聞かせください。
新卒で入社したのはSIerでした。そこで経営企画の仕事に携わったのちに、大手メディア会社に転職し、マッチングビジネスの事業企画、営業企画、事業開発などの仕事を経験しました。その後コンサルティングファームに転職したのは、その仕事で得たノウハウを活かしたいと考えたからです。コンサルティングファームでは、主にM&A(企業の合併・買収)後の事業戦略や組織戦略の支援を担当しました。いわゆるPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)と呼ばれる仕事です。
博報堂に入社したのは2012年です。広告会社で働くのは初めてだったので、広告やマーケティングビジネスについてインプットしながらデジタルマーケティングのコンサルティング業務に関わりました。現在は、マーケティングシステムコンサルティング局という部署でDXのコンサルティングの仕事を主に手掛けています。
─なぜ、博報堂に転職しようと思ったのですか。
コンサルティングファームでの自分の仕事に疑問を感じたからです。ご存知のように、経営コンサルティングはロジックをとことんまでつきつめて企業に方向性を提案していく仕事です。しかし、ビジネスは必ずしもロジックだけで動くものではありません。生活者や従業員の情理に訴える要素も必要ですし、論理的には説明しづらいが、直感的にこれだと思う戦略がむしろ機能することもよくあります。事業会社で実際に泥臭く事業運営に関与していた経験からすると、コンサルティングファームでのアウトプットは「理屈としては正しいけど、本当にそれで事業が成長するのか、顧客が増えるのか」に自分の中では納得しきれなかったのです。その点、博報堂は多くの人の心を捉えるクリエイティブやマーケティングの力が非常に優れているという評判をよく耳にしていました。ビジネスのロジックを組み立てながら、人々の感性に訴える仕事ができるのではないか。そう考えたのが博報堂に来た理由です。
■事業の「営み方」の変革をトータルに支援する
─ビジネスストラテジストというポジションの役割を説明していただけますか。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタルの力を使ってさまざまなものを変革していくことですが、それによって事業の「営み方」そのものが大きく変わるケースが少なくありません。例えば、モノを売り切ることで完結していたビジネスが、顧客との関係継続を目指すサービス型のリテンションビジネスに変わる。そんな変化です。
ビジネスの営み方が変われば、事業管理のやり方、ビジネスサイクル、意思決定のスピード、管理会計の仕組みなども変わります。例えば、モノ売りビジネスは物が売れたという売上に対して、商品原価・マーケティング費・人件費 等のコストが削られて営業利益になっていくというシンプルな構造です。やるべきことは販売数を増やす、コストを下げる、価格を上げる、になりますよね。一方で、リテンション型ビジネスの一つである会員向けビジネスを例にすれば、やるべきことは会員を増やす、離脱を減らす、客単価を上げるという考え方になります。事業の構造も、固定費ビジネスから変動費ビジネスに変わるため、コストの動き方も変わります。ビジネスサイクルの面でも、販売レポートを月次で確認していくのではなく、顧客接点となるアプリやリアルの接客なども変化を見ながら細かな毎日のようにチューニングをを繰り返し続けないといけません。このように、やることも、把握することも、そのサイクルも変わってしまう。ゆえに、事業管理の手法・組織・人材・業務プロセス等を再構築しないといけません。つまり、単にテクノロジーを導入するのではなく、事業の営み方を変えないとテクノロジーを最大限受容できないのです。そこに多くの企業が困っていると考えています。つまり、ビジネス全体のストラテジー(戦略)や構造そのものが変わるわけです。私はそれを「事業実装」という言葉にしていますが、その事業実装をトータルでサポートさせていただくのがビジネスストラテジストの役割です。
─ストラテジックプラナーとの違いはどこにあるのでしょうか。
ストラテジックプラナーは、顧客接点をコンセプトのレベルからプランニングするプロフェッショナルです。それに対してビジネスストラテジストは、顧客接点だけでなく、それに合わせて事業の営み方変えるということです。ですので、PJの中でストラテジックプラナーに入っていただき一緒に進めていくことも多いですね。
よく「構想と実装」という言い方をしますが、DXの場合、構想してから実装するのでなく、むしろまず大きな仮説に基づいて実装し、その成果を見ながら戦略の構想を精緻にしていくというプロセスが求められます。正しい戦略をつくるには、正しい実装が必要です。博報堂には、生活者とのタッチポイントをつくるアイデア、クリエイティビティ、制作力があります。つまり確かな「実装力」があるということです。その実装力と構想力を掛け合わせて企業の戦略づくりを支援していくのがビジネスストラテジストの仕事です。
─ビジネスストラテジストに求められる素養とはどのようなものでしょうか。
重要なのはアジリティ(迅速さ)、それからそのアジリティを担保するデジタルビジネスの「勘どころ」がわかることですね。例えば、新しい顧客体験を考えたとき、それによってユニットエコノミクスがどう変化するのか、体験を継続的に良くしていくためには、現状の投資決済プロセスだとここがアジリティの足かせになるとか。デジタルを活用しながら新しいビジネスモデルをつくっていくときに、何がポイントで、どこにリスクがあるのかといった見極めをし、仮説設定、検証、方向性の転換といった動きを迅速にしていける。そんな力があれば、優れたビジネスストラテジストになれると思います。
─現在、ビジネスストラテジストは社内にどれくらいいるのですか。
できたばかりのポジションなので、まだ少ないですね。今後、優秀な人材がどんどん集まってくることに期待しています。
■デジタルとクリエイティビティの掛け合わせが大きな価値を生み出す
─具体的な仕事の内容についてもお聞かせください。
仕事は、営業経由の場合と、自主的に提案をしていく場合の両方があります。この仕事の醍醐味の一つは、博報堂DYグループに在籍する全てのメンバーとチームをつくれる可能性があることです。クライアントの課題によって、プランナー、クリエイター、エンジニアなどに声をかけてそのつど最適なチームをつくれること。つまり、PJを提案するスコープに柔軟性があります。それが何より面白いですね。
DXの最終的な目標は、デジタルを活用したビジネスの仕組みをクライアントの社内で内製化していただくことです。トランスフォームを支援させていただきながら、ゆくゆくはクライアントが自力で新しいビジネスを回していけるような提案をしなければなりません。
その際にしばしばハードルになるのが、クライアントの社内の組織体制や人材スキルです。組織の壁がネックになってDXが思うように進まない。そんなケースが少なくありません。そんな場合は、私たちが組織改革の支援をさせていただくこともあります。
─仕事の今後の展望をお聞かせください。
ビジネスストラテジストは、自分が起点となってプロジェクトを立ち上げることができるポジションです。新しいプロジェクトを立ち上げて、博報堂DYグループのビジネスの幅を広げていきたい。それが展望の一つです。
もう一つ、クライアントが「手数」を増やすお手伝いを今以上にしていきたいと考えています。現代のビジネスの特徴は「やってみなければわからない」ことです。過去の成功・他社の事例が使えない不確実性の高い時代です。そのような中での打ち手は、まずはやってみて、その中からより成功しそうな勝ち筋を見出していくことが、ビジネスの成長の今日的な条件です。成功確率を上げるためには、「手数」を増やしていかなければなりません。クライアントとともにいろいろなアイデアを試してみて、そこからより確かな戦略を絞り込んでいく作業をサポートさせていただきたいと考えています。
─10年近く博報堂で働いてきて、この会社の魅力はどこにあると感じていますか。
会社としての方針は明確にあるのだけれど、その方針にもとづいてどのように動いていくかは各現場の社員が考える。それが博報堂のカルチャーです。自分たちからアイデアをどんどん出していくことができる一方で、すべての社員がプロフェッショナルとしての責任をもたなければなりません。それが博報堂で働く一番の面白さであると感じています。
─最後に、博報堂のビジネスストラテジストになりたいと考えている皆さんに向けて、メッセージをいただけますでしょうか。
博報堂は何よりクリエイティブに強みがある会社であり、それによって生活者や世の中にインパクトを与えられる可能性がある会社です。どのような職種でも何らかのクリエイティビティが求められます。ビジネスストラテジストは、クリエイティビティにデジタルビジネスのノウハウを掛け合わせて新しい価値を生み出していくプロフェッショナルです。ぜひ、多くの皆さんにこのポジションにチャレンジしていただきたいですね。一緒に新しいものを生み出していけることを楽しみにしています。